ももクロ&アイドル blog (by中西理)

ももいろクローバーZとアイドルを考えるブログ

「踊りに行くぜ!!」SPECIAL IN ITAMI

「踊りに行くぜ!!」SPECIAL IN ITAMI
 JCDNの巡回公演「踊りに行くぜ!!」の9回目。今回は全国19都市で開催し、41組のアーティストが出演した。その中から特に話題 になった作品を上演する“スペシャル公演”が東京・伊丹の2カ所で開催され、そのうちSPECIAL IN ITAMIを観劇した。
 いささか気が早いが、今年のダンスベクトアクトのベスト1有力候補となりそうなほどの出来栄えだったのがyummydanceの「手のひらからマウンテン」である。ついに「この1本」という作品が誕生したなと思い、成長を見守ってきた観客として嬉しい気持ちになった。
 トヨタコレオグラフィーアワードなどの振付賞で連続してファイナリストになった実績もあり、メンバーの全員が自分の作品で「踊りに行くぜ!!」などのショーケース企画に出演した経験があるようにダンサーであるだけでなく、振付家でもあり集団創作を志向してきた。そのためにやや焦点が定まらないというところあり、そのことがこうした振付賞で賞を惜しくも逃す結果となっていた要因であったことも否定できない。
 「手のひらからマウンテン」はトウヤマタケオ楽団(トウヤマタケオ・藪本浩一郎・清水恒輔・ワタンベ)とのコラボレーション作品で、JCDNが企画したDANCE×MUSIC!〜振付家と音楽家の新たな試みvol.3〜で2007年に初演されたものの再演である。なんといってもトウヤマタケオ楽団がこの作品のためにオリジナルで制作・演奏している音楽がいい。ポップでありながらどこかとぼけた曲想がyummydanceの持ち味、雰囲気とよく合致している。ミュージシャンと振付家・ダンサーとの共同制作というのは最近では珍しくないが、それほど簡単なことではなくうまくいっている例は限られる。
 今回はyummydance側がトウヤマタケオの熱錬なファンだったということがあり、一緒に作品を制作する際にも過去の作品の映像資料を見てもらいイメージをしっかり持ってもらったうえで、作品制作に入ったのがよかった。オリジナルの音楽だが、yummydanceのイメージとぴったりな曲想で、聞くところによるとこの楽団は普段の演奏ではこういう聞きやすいポップな曲だけでなく、もう少し現代音楽風な曲も演奏しているということなので、今回の音楽はまさにyummydanceのために作ったもの。ダンサーそれぞれの動きが違っていながら、普段の作品よりもまとまりが感じられるのは音楽がそれを束ねる役割をして、それぞれの動きがそれぞれ共通の音楽に同調することで、動きに差異がありながら同調性が感じられるようになっており、そのバランスがこの作品では絶妙であったからだ。
 鈴木ユキオ(金魚)とバイオリニストの 辺見康孝による「Love vibration」もDANCE×MUSIC!が初演。以前に見た時はまだお互いに距離感を測り合っている感があったのだが、今回はその時とは一変して、呼吸もぴたりで、ソロダンスに伴奏がつくというよりも演奏家とダンサーによるデュオ作品という感じである。音楽家とダンサーとの共演というのは即興演奏・ダンスによるものを含めば珍しくないが、相手がバイオリニストで舞台狭しと動き回ったり、果ては地面に寝転んで演奏するなどといのは前代未聞ではないだろうか。鈴木のダンス作品としてもトヨタアワードを受賞した代表作「沈黙とはかりあえるほどに」と比べても遜色のない完成度の高さを感じさせた。 
 j.a.m.Dance Theatreの「タンゴ」、北村成美の「パラシューート」はいずれも以前に見たが、練り上げたことで完成度の違いは歴然。再演していくことの重要性を改めて再確認させられた。特に「タンゴ」は京都芸術センターでのダンスショーケースでの上演など何度も見たことのあるおなじみの作品で、以前見た時にはタンゴの音楽に合わせてパフォーマーがお互いにキスするように口と口を近づけながら(だけど、実際には接触はしていない)踊るというアイデアが面白い、という程度の印象でしかなかったのが、ハードエッジに男女の関係性を描いた激しいデュオ作品に印象が一変。照明効果や衣装を変えたことの印象の違いも大きく、暗闇のなかにサスの照明のなかに二人のダンサーが浮かび上がる場面から、女が男に激しくぶつかりそのたびに振り払われるのが何度も繰り返させる冒頭の一連の流れは思わず引き込まれてしまう力があった。
 「パラシューート」は北村ひさびさの新作。初演は一晩もののプログラムということでもう少し長くいろんな要素を含んだ作品であったが今回はそれをコンパクトにまとめた。パラシュートで勢いよく降下していくような女性という作品のコアのイメージは変わらないが短縮版になった分だけ、その怒涛の展開はインパクトを増した。結婚そして出産としばらく小休止をしていた北村だが「38歳。まだまだ頑張ります」などと作品のなかでも語っているようにこれまでの元気いっぱいに加えて、母親になったことの逞しさも感じさせた。

 最後にチョン・ヨンドゥ(Jung Young-doo)「風の合間で in the pauses of the wind」は端正さを感じさせる男女2人のデュオ作品である。ダンスのデュオ作品としてはオーソドックスな作りで、2人のダンサーの高度な技術に裏打ちされた流れるような動きの連鎖が心地よい。こういうオーソドックスなデュオ作品は日本の最近のコンテンポラリーダンスでは滅びてしまったようで現代舞踊など特殊な公演を除けばまず見ることができないと思う。ひさびさにこういうものを見せられると改めて日本のコンテンポラリーダンスについて考えさせられ、そういう意味では興味深い作品であった。




 
 
  
 
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