ももクロ&アイドル blog (by中西理)

ももいろクローバーZとアイドルを考えるブログ

青年団第76回公演「さよならだけが人生か」(2回目)@吉祥寺シアター

作・演出:平田オリザ

『さよならだけが人生か』(2000)

「そのとき日本の演劇界が青年団を発見した」とも言われる劇団の出世作
待望の再演。東京都内某所の雨が続く工事現場に、折り悪く遺跡が発見される。
遅々として進まない工事。
工事現場の人々、発掘の学生達、ゼネコン社員や文化庁の職員など、
様々な人間達がだらだらと集まる飯場に、ユーモラスな会話が、いつ果てるともなく繰り広げられる。
青年団史上、もっともくだらない人情喜劇。

1992 年に初演され、「そのとき日本の演劇界が青年団を発見した」とも言われる劇団の出世作
2000 年 のリニューアル上演以来、16年ぶり待望の再演。

出演

山内健司 小林 智 太田 宏 石橋亜希子 荻野友里 小林亮子 立蔵葉子 森内美由紀 石松太一 伊藤 毅 井上みなみ 小瀧万梨子 佐藤 滋 前原瑞樹 串尾一輝 藤松祥子 大村わたる 寺田 凜

 平田オリザ作品のうち一番、玉田真也の作風と接近したのは「さよならだけが人生か」かもしれない。

2000年12月29日、シベリア少女鉄道「もすこしだけこうしていたいの」(2時半〜)、青年団「さよならだけが人生だ」(7時〜)、30日、竹中直人の会「隠れる女」(2時〜)、えんぺ大賞選考会(5時半〜)、31日、サモアリナンズ「マクガフィン」(8時〜)。1月1日青年団「さよならだけが〜」、2日「ニューイヤー華麗なるバレエ・ワルツの祭典」(3時半〜)、3日、レニングラード国立バレエ「眠りの森の美女」(2時半〜)。

 この舞台はシードホールで上演された初演は見てはいないが、2000年末から2001年始にかけて上演された再演は見ている。しかし、過去の日記風雑記帳を確認しても見たということしかなくて、内容に関する言及がまったくない。おそらく内容的に書くことがなさすぎてレビューを書くことができなかったのではないかと思われる。観客発信メディアWLに書いた玉田企画「少年期の脳みそ」論*1に「玉田の作品は平田オリザ流の群像会話劇のスタイルに近い。どちらも切り取られた一定時間の(ほぼ)一定の場所をリアルタイムで描写していくが、決定的に違うのは平田の演劇は一見切り取られたその場所に起こった微細な出来事を語っているように見えて、その射程が『切り取られたフレーム』の外側に広がる世界を描くことに向かっているのに対し、玉田にはそういう志向がまったくないことだ」と書いたのだが、この「さよならだけが人生だ」では海外留学や転勤という社会的契機にともなう「別離」というものが変奏され、幾分かの外部の存在は提示されるが、そこから社会的状況や世界のあり方に大きな広がりを見せていくことはない。
  実は昨年上演された平田オリザの新作「ニッポンサポートセンター」について演劇批評誌「シアターアーツ」Webに以下のような劇評(抜粋)を書いた。

 「クルマパソコンケイタイ電話 原発軍隊何でもあるさ 日の丸かかげて歌え君が代 ほんにこの国よい国じゃ あとはなんにもいらんいらん 余計なものはいらんいらん」という歌詞を舞台上にいる俳優が皆加わり、この部分を群唱するのだ。(中略)歌詞内容からして明らかに政府批判の歌であり、平田がこの歌を舞台上の俳優に歌わせることで現政府に対する批判を行ったという印象を与えるラストであったことは間違いない。ここでこの作品が「未来」ではなく「現代」を描いていることの意味合いが浮かび上がってくる。

 安部政権は参院選勝利を収め、改正賛成派で憲法改正の発議に必要な衆参両院で3分の2以上の議席を確保したが(この作品が書かれたのは選挙前ではあるが)平田が現在のそうした政治的な状況に大きな危機感を感じている。それがこうした異例の舞台を書かせた要因のひとつとなったのではないかと思われたからだ。

 さらに続けて無隣館との合同公演として上演された「南島俘虜記」も一部の評者は現在の政治状況とのシンクロニシティーを指摘した。ところがどうやら、作者の平田オリザはそういう政府批判な文脈で自分の作品が取り沙汰される風潮に対し、批判的なようだ。アフタートークではこういう世相だからこそあえて青年団史上もっともくだらない人情喜劇であるこの芝居を上演したなどとしたうえで、最近の若手劇団に散見されるという自らの政治的主張を作品に代弁させるような作風(ならびにそれを高く評価する一部の批評など)に対し批判的な立場を明らかにした。
 そうした立場は私自身も共有するものだが、そうであっても平田のように社会に対する批評的な視点を持つ作品の方を玉田真也の作品のように描かれた対象の外部を感じさせないような作品よりも幾分高く評価しがちな傾向は私にもある。今回の舞台を見ながらそうした見方が本当に適切なものなのかどうか、もう一度考えてみたいと思った。

*1:【劇評】純度の高い笑い 確信犯で体現 劇評テーブルvol.4―玉田企画『少年期の脳みそ』より 中西理 http://theatrum-wl.tumblr.com/post/159881055911/%E5%8A%87%E8%A9%95%E7%B4%94%E5%BA%A6%E3%81%AE%E9%AB%98%E3%81%84%E7%AC%91%E3%81%84-%E7%A2%BA%E4%BF%A1%E7%8A%AF%E3%81%A7%E4%BD%93%E7%8F%BE