アビニョン1998観劇レポート(中西理)
7月12日から19日まで、南仏アビニョンに出掛けた。初めてアビニョン演劇祭のオフに参加したイデビアン・クルーとこちらは4年ぶりの参加となる日仏共同プロジェクト「MATOMA」の公演を見るのが目的である。
イデビアンは今春上演した「包丁一本」の改訂版。アビニョン版は劇場側の制約で上演時間が50分に短縮されたため大幅にカット。「包丁一本」の初演は四部構成。1、そろいの黒袴での構成的な群舞 2、少数精鋭で関係性を見せる振り付け 3、着物を着けての群舞 4、関係性を見せながら集団で踊る群舞。このうち、今回は3のみを若干のプロローグ部分に新たな振付を導入して上演した。ずいぶん思い切った選択をしたというのが最初の印象。日本ではトレードマークとなっている黒のレオタードと名前入りの白ブリーフもなければ、笑えるシーンもなかったからだ。
ただ、これでも井手茂太の振付のオリジナリティーの高さはきわだっている。ミニマルなピアノ演奏が続く前半、奥でイスに座っているダンサー(高橋ゆみ)が眠気をこらえているような仕草がある。これは彼女の午睡の間に見た夢(悪夢?)をビジュアル化したものか。夢のような奇妙なイメージがなんともグロテスクでありながら、美しいイメージを醸し出していた。秋には新作「ウソツキ」、アイホールでの初の関西公演(10/30、31)もある。井手がどんな方向性を見せるか楽しみだ。
一方、MATOMAは今年は4年ぶりのアビニョンということで日本の四季にちなんだ4作品を「LE CYCLE DES SAISONS」(四季の巡り)と題し A「UBUSUNA(うぶすな)」(冬)、「MIZU GAKI(みずがき)」(春)、「HI NO HIGASI(日の東)」(夏)、「KIN-IRO NO KAZE NO KANATA(金色の風の彼方)」(秋)の順で上演。3回の休憩をはさみ上演時間4時間以上の大作である。
ヤザキタケシや冬樹らよく知っているダンサーも参加しており、それが4年前と今回、2度もアビニョン演劇祭を訪れるきっかけとなった。前にも会場のセレスティン教会の場の素晴らしさと雅楽の荘厳な雰囲気に感銘を受けた。だが日本的な振りをとりいれたダンスだが、ムーブメントとしては洗練されておらず若干の疑問もある印象。しかし、今回は舞台が始まるとそんな危ぐはどこかに吹っ飛んでしま Iった。
特に素晴らしかったのは「金色〜」と「うぶすな」。中でも「金色〜」は4年前とは全く別の作品に変貌していた。豊穰を祝う気分に満ちた雰囲気。地母神的な存在感を見せる田村博子のソロから、精霊たちによるトリオのダンス。相撲や案山子、埴輪のような日本的なるものの引用は前にはダンスとしては未消化で、他の部分と分離している印象があった 徐ッェ、今回は流れるような動きの中に自然に溶け込んでいる。6年という付き合いを通して、ヤザキの卓越したテクニック、森美香代の日本人離れしたノーブルな雰囲気、小柄でキュートな森裕子、小悪魔的魅力の進千穂……ダンサーそれぞれの持ち味を十分に生かした役の振り分けが見事。「うぶすな」は古事記の天の岩戸のくだりの朗読に合わせて祝詞の音楽に乗せて踊られる祝祭的なダンスだが、日本の古代と同時にギリシアやそういうものを感じさせる普遍性が魅力。アマノウズメを踊る森美香代のソロが見ごたえたっぷりであった。