シベリア少女鉄道
今春のももいろクローバーZの舞台版「幕が上がる」(5月1〜24日、ZEPPブルーマンシアター六本木、平田オリザ作、本広克行演出)に続き、今秋には乃木坂46の「すべての犬は天国に行く」(10月1〜12日、AiiA Teater Tokyo、ケラリーノ・サンドロヴィッチ作、堤泰之演出)、さらにはパルコ劇場プロデュースによる「ダブリンの鐘つきカビ人間」(後藤ひろひと作、G2演出)への上西星来(東京パフォーマンスドール)のヒロイン抜擢など女性アイドルグループによる舞台挑戦が目立っている。
これらの公演より規模こそ小さいものの、「アイドル×劇作家」の新たな取り組みとして注目したいのが、「シアターシュリンプ」である。ももクロも所属する大手芸能事務所スターダストプロモーションの後輩アイドルグループ「私立恵比寿中学(エビ中)」とシベリア少女鉄道の土屋亮一による共同プロジェクトだ。旗揚げ公演シアターシュリンプ 第一回公演「エクストラショットノンホイップキャラメルプディングマキアート」(3月、博品館劇場、土屋亮一作・演出)は人気アイドルの公演ゆえ生で舞台を見ることはできなかったが、ブルーレイで発売された映像ソフトは鑑賞した。
作品はとある学校の演劇部を描いた本格的なコメディである。登場人物はエビ中メンバー8人と土屋の舞台作品には欠かせない存在である小関えりか(シベリア少女鉄道)、加藤雅人(ラブリーヨーヨー)。8人にはすでにテレビ東京のテレビドラマ「甲殻不動戦記 ロボサン」では書き下ろし脚本を提供し、それぞれの個性も把握しているだけに緻密な設定のシチュエーションコメディのなかでメンバーそれぞれに見せ場が用意され、魅力的な作品に仕上がった。直接的な言及はないが演劇部という設定は明らかにももクロが映画、舞台で主演した平田オリザ原作の「幕があがる」を意識したものとは思われる。もちろんこちらは「幕があがる」とは正反対に全然やる気がない演劇部で、やる気がないので適当に切り上げて帰ろうとしていたら、そこにやる気満々のOBでもある先輩が現れ、今度はその先輩の前ではなんとかばれないようにごまかしてやりすごそうとするが思わぬことが次々起こって窮地に陥るというあくまでばかばかしく抱腹絶倒なコメディーで、間違っても感動することはない(笑)。
シベリア少女鉄道をはじめ土屋の舞台作品は旗揚げ以来ほぼかかさず見てはいるもの、ファンだったら理由は分かると思うが、大人の事情もあり、これまで映像ソフトが発売されたことはない。実は「エクストラ〜」は土屋が作演出した舞台作品として初めて映像化された作品でもあり、エビ中ファミリー(エビ中のファンのこと)はもちろんシベリア少女鉄道ファンにとっても必見の映像作品といえるかもしれない。
土屋の最近の活動は目覚しいばかり。NHKの人気コント番組へも脚本を提供するなど活動の幅も急拡大。年明けには共同脚本を担当するテレビ東京の人気シリーズ「ウレロ☆」の第4弾「ウレロ☆無限大少女」も始まる。
だが最大の注目は「シベリア少女鉄道」(11月26日〜12月6日下北沢・駅前劇場)の新作「Are you ready? Yes,I am.」が上演されることだ。残念ながら土屋作品の場合、実際に舞台が始まるまではその具体的な内容はベールにつつまれていてうかがい知ることはできない。会場となる駅前劇場は以前は何度か公演したことがあるが、ここに登場するのはひさびさのこと。土屋は劇団ホームページに「客席と距離の近い小さな劇場で、勝手知ったる馴染みの出演者たちと『それでここまで地に足の付いてないものをやるかね?』というような、純度100%の頭の悪い公演をお届けしたいと思います」とコメントとしているが、狭い会場ゆえに劇場の狭さを何らかの方法で逆手にとって活用したような舞台となりそうな予感。さらに「きめ細やかな混沌を、濃密すぎる劇空間を、一秒たりとも見逃さないのもいいですし、顔を覆って天を仰ぐのも、頭を抱えて顔を伏せるのも仕方ないとは思います」ともしているが、こちらのコメントにも内容へのなんらかのヒントが隠されているのかもしれない。さてこの公演にはどんな驚きが待ちかまえているだろうか。
エビ中ファミリーにとってはこの狭い会場でお忍びで来たメンバーにばったりなんて奇跡もあるかもしれないが、それは本来期待していくものではないだろう。万一、メンバーならずともいたとしてもそこは見て見ぬふりをするのが正しいファンの姿だろう。
さらに言えばシベリア少女鉄道はアイドル好きな作演出の嗜好を反映してか、歴代の看板女優が皆、アイドルに負けないかわいさの持ち主であることも魅力。今回も現在その系譜を継ぐ小関えりかが出演する。小関の場合、出演しているエビ中のファンが大部分である客席だったシアターシュリンプ公演でさえも「小関」推しを輩出させたとの噂もあるだけにそのアイドル力にはやはり期待したいところだ。