映画「PINA/ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち」(ヴィム・ヴェンダース)@梅田ブルク1
この映画は本当に素晴らしいの一言。3Dの映画は「アバター」をはじめいくつか見ているが、「いまそこにあるがごとき臨場感」という意味ではこの映画の冒頭近くの「春の祭典」の場面ほどのものを見たことはなかった。本当に生で踊っているのを客席からどころか、舞台上のすぐ近くから目撃したような感覚で、そのダンスの生々しい迫力に圧倒された。今回は大阪ヨーロッパ映画祭のオープニング特別上映として1回だけの先行上映となったが、この映画がもし大阪でも3D上映されるのであれば、ぜひもう一度といわず2度でも3度でも見に行きたいそんな風に思わされた。
ピナ・バウシュの作品の素晴らしさというのがもちろんまず最初にあるのだけれど、ヴィム・ヴェンダースはその撮影について、単に劇場での公演の記録を取るというのではなくて、ダンサーを(いずれも本拠地のあるウッバタール周辺と思われるが)路上、公園、どこかの建物の内部や屋上など劇場外に連れ出して、そこで踊らせて撮影している。この映画には踊りやダンサーの魅力に加えて、そうしたロケーションの持つなんとも美しい光景の「場が持つ力」が加味されていて、それが一層の魅力につながっている。
そうした映像も普通の映像で見れば印象的なものであっても「ああ、きれいだな」で終わってしまうところを3Dの画面でそれを見るというのはあたかもそれがいまそこで行われているのを追体験しているかのような生々しさがあった。
3D技術自体は新しいとはいえすでに確立されているものだが、それを舞台芸術の記録に用いるというのはある意味コロンブスの卵のような発見といえるのではないかと思えた。これまでも劇場の中継映像の映画上映やドキュメンタリーはあったけれども、現実体験である実際の観劇とこれほど近い感覚を抱かせるものはなかった。さらに言えば野外での撮影部分などは実体験が不可能な事物の仮想体験のようなところもあり、これもまた新たな発明であろう。
実現には経済的な壁があるのだろうけれど。日本でも3Dの記録映像がもし登場するとしたら東京・大阪以外で行われる維新派の大規模野外公演などはその臨場感が味わえるという意味では有力なコンテンツとなりえるような気がするのだが、だれか挑戦してくれる映画監督いないだろうか。