We Dance京都2012
2月3〜4日の両日、ダンスに携わるアーティストによるフォーラム「We dance京都2012」が元・立誠小学校などで開催された。「We dance」は、アーティスト、振付家などが主体になり、ダンスパフォーマンス、トークセッションなどを開催。主催は「Offsite Dance Project」(岡崎松恵代表)。2009年にはじまり、これまで毎年横浜で開催されてきたが、昨年横浜での企画担当者にダンサー・振付家のきたまりが参加したことをきっかけにぜひ京都でも開催をとの機運が高まり、今回初めての京都開催となった。
2日間のイベントではあったが、初日の3日はWe Dance Kyotoオープニングジャムセッションと題して、参加ダンサーらが設定された一定の条件の基に即興で踊るという企画だけでほぼ参加者らによる顔合わせ的な色合いが強かった。これに対し4日は開始の1時から深夜のダンス☆ナイト(クロージングパーティー)まで、公演だけでもこの日のために企画された新作が7本、それにそれぞれの参加者によるトークなどきわめて充実したラインナップとなった。
横浜の「We dance」では公演もショーイング的なものが多く、それ以外のワークショップ、トーク、会議、レクチャーなどの企画が多く、ダンスを見せるというよりもダンサー、アーティスト相互の交流の場の色彩が強かったが「We dance京都2012」は内容をダンサーらの参加する作品作りに絞り込み、なかにはこれだけのために1カ月以上の稽古を重ねたものもあるなどダンサーの交流を作品作りを通じての交流という風に絞り込んだ。そして、通常の作品制作との違いをはっきりさせるためにきたまりは今回プログラムに2つの工夫を凝らした。ひとつはこれまで関西のダンス界を支えてきた振付家ではなく、きたまりと同世代ないしより若い世代の気鋭の振付家4人(菊池航・中西ちさと・日置あつし・荒木志珠)に作品制作を依頼。しかも一緒にやるダンサーはこれまで一緒にやってきた人ではない人との組み合わせとしたこと。
もうひとつは東京から招へいした東京デスロックの多田淳之介をはじめ、京都を拠点とする相模友士郎、筒井潤(dracom)と演劇畑の演出家3人を招き、ダンサーとの共同作業による作品制作を委嘱したこと。こちらの方では関西を代表するようなキャリアのダンサーらが参加した。
作品は関西のショーケース公演のなかでは最近あまり見かけないような意欲作が多く、作品のレベルもどちらかというと習作的なものが多かった横浜の「We dance」と比べても格段にレベルが高かったのだが、なかでも白眉の出来ばえであったのが多田淳之介演出による「RE/PLAY」だった。「RE/PLAY」は東京デスロックが昨年上演し現在も日本各地をツアーして回っている「再/生」という作品の系列に入るものだ。「再/生」は音楽に合わせて一連の一定の動きのシークエンスを繰り返し、その激しい苛酷な動きを繰り返すことで、しだいに疲弊していく身体を見せ、そこに表象される人間の「生」と「死」を問いなおしていく作品。
最初「再生」として2006年に初演され、それはネットで誘い合って集まって集団自殺をはかる若者たちの姿を描くという具体的な物語があり、その中にはノリのいい音楽に合わせて、登場人物たちが踊りまくるという場面があり、その喧騒の中で毒を飲んで全員がばたばたと倒れていく。だが、「再生」の趣向の面白さは物語にはなく、生身の人間が同じ動作を3回繰り返すといってもそれは不可能で、その間にも身体は疲弊し動けなくなっていく1時間30分として示して見せたことで、命はその時、その場所にしかないこと、人生に同じ瞬間は絶対にないことを観客に示したのである。再演となった2011年の「再/生」では俳優の動きにはもはや具体的な意味はなく、その意味ではダンスに近いとも言えるが、そこで提示されるのは動きそのもの(ダンス)ではなくて、それが繰り返させることによる身体的な負荷で動けなくなる人間、そしてそれにもめげずに動こうとするその姿から3・11以降の「死」と「再生」を重ね合わされるような舞台となっていた。
「RE/PLAY」は基本的には「再/生」のコンセプトを受けついだもので、多田の作品の場合、動き自体は特定の振付を振付家が与えるわけではなく、パフォーマー自身が提出するものであり、この場合はダンサーである出演者がそれぞれ自ら創作したものであるため、動き自体はダンスと言ってかまわないのだが、全体の構造は多田が用意した演劇的な仕掛け(繰り返すことで疲弊していく身体)に支配されているため、あえて言うなら「演劇作品」であるはずのものであった。
今回は同じ動きを3回繰り返すというのではなくて、「RE/PLAY」という表題の通りにレコードプレイヤーの針を戻して同じ曲を何度も何度も繰り返すように最初にオープニングとしてサザンオールスターズの「TSUNAMI」が2度ほど繰り返した後、ビートルズ「オブラディ・オブラザ」がなんと10回連続でかかる。この後、「ラストダンスを私に」になど「再生」以来おなじみの曲と相対性原理、そして最後の方でPerfumeの曲が繰り返しかかったころにはほとんどの出演者は疲れ切ってだめだめの状態で、まさに多田(釈迦)の手の平に乗る孫悟空のように予定通りの有様だった。
ところが「あるはず」と書いたのはこれまで見た多田の作品では必ず起こっていた疲弊のようなことを超越して、ただただ踊り続ける1人のダンサー(松本芽紅見)がいたからだ。松本ももちろん疲れていないというわけではないのだろうが、ほかの人が次々と限界を迎えていくなかで、疲れれば疲れるほど一層気合が入ってきて、動きの無駄が削げ落ちきて、神々しいまでの存在感を見せ始める。一瞬赤い靴を履いたバレリーナのことさえ思い出させるその姿はまだに「ダンスそのもの」を思わせた。これは作品のコンセプトを吹き飛ばしてしまい、逆説的にそこに演劇(=意味性)を超えた「ダンスというもの」を逆説的に浮かび上がらせた。
演出家・相模友士郎とダンサー・野田まどかによる「先制のイメージ」もいわゆる振り写しではない振付の生成をそのノウハウと一緒に見せてしまうという一種のメタダンスであった。こういうものはダンスの内部からの思考ではそれが例え、最近はやりのノンダンス的なコンセプト重視の作品であってもちょっと出てきにくい種類の作品で、こういうものを生み出したということだけでも演劇の演出家を招へいしたきたまりの企画は成功だったといえるだろう。
最初に舞台下手に相模が登場してコカコーラの歴史についての薀蓄を語り始める。その後、野田が舞台に登場して、なにやら少し小さな身振りのようなことをはじめる。それはマイムのようなはっきりしたものではないのだけれど、どう見てもなにか身振りのようなもの見えるがそれがなんなのかははっきりとは分からない。これを一度見せてから相模は「これはある日の家で起きてから、稽古場に来るまでの様子を思い出して、再現してもらっています」と説明し、野田にそれぞれなにをしているところかを説明しながらもう一度同じ動きを繰り返すように言う。そうするとよく分からなかった動きの連鎖が途端に意味がある動きの連鎖として見えてくる。そして、今度はセリフなしでもう一度動きだけを繰り返させるが不思議なのは一度意味性と張り付いた動きはその意味合いを言葉を失っても、失わない。 いわばこれはマイムがどうして成り立つのかという原理なのだが、次に野田に対し、相模は外から自分が人形遣いで先ほどの自分の動きを外側から操るように動くように指示する。これでも見ていると実際に動いている野田の動き以外にそれが操っている仮想の人形のようなものが見える。次にその動きを基本的に守ったままで、動きを自律させるように指示する。ここのところが少し分かりにくいのだが、簡単に言えば動きを動きとしてぎくしゃくしたものではなく少し自然な流れにまかせるようなものとする。それでもなんとか前のイメージは少し残っているのだが、ここに音楽を重ねていくと印象が一変する。直接的な意味性のようなものが薄れていって、ダンスないしダンスのようなものに俄然見えてくるのだ。
そして、その後、今度は最初に読んでいたコカコーラについての文章を朗読して動きに重ねていく。そうするとまた意味性が生まれてくるが今度は動きと言葉が1対1で対応しているわけではないので、もはやそこに言葉が重なっても「演劇のようなもの」には見えはしないが、コカコーラについての語りと野田の動きはどこかで共鳴しあっていて、それをダンスと呼ぶべきかどうかは微妙だが、もはやそれはそれまでのプロセスで出てきたどの段階とも違う新たな表現となっていた。演劇(マイム)⇔ダンスの関係を動きと意味性との距離感を自在に伸縮させることで多面的に提示した作品でダンスとはなにか、演劇とはなにかを考えさせるという意味できわめて興味深いものであった。
それ以上に刺激的に感じたのが最終的なアウトプットに至るまでの段階で、相模は野田と1カ月以上も毎日のように試行錯誤を繰り返してきたことで、今後この時の試行錯誤から今回とはまったく別の方向性の作品が生まれてくる可能性も感じさせたのである。
「若手振付家、ダンサーによるダンスショーケース」では菊池航の「セッチュウアン ってことで。」が面白かった。菊池は近畿大学出身で自ら主宰するダンスカンパニー「淡水」のメンバーも全員がそこの卒業生。ダンサーの高木貴久恵(dots)、松尾恵美はともに京都造形芸術大学の出身で、関西のコンテンポラリーダンスではこの両大学の出身者が2大勢力となっているが、意外と交流は少ない。
このため、菊池もこの2人とやるのは初めて。高木はdotsの振付を担当、ダンサーとして出演するほか、最近では白井剛「静物画」にも出演しており、松尾恵美はKIKIKIKIKIKIに参加しきたまり作品を踊ったほか最近は木ノ下歌舞伎「夏祭浪花鑑」で主演するなど演劇でも活躍している。
http://www.danceplusmag.com/a1/99