燐光群「くじらの墓標2017」@吉祥寺シアター
作・演出:坂手洋二
[出演] 中山マリ 鴨川てんし 都築香弥子 川中健次郎 猪熊恒和
HiRO 大西孝洋 樋尾麻衣子 杉山英之 武山尚史
山村秀勝 田中結佳 宗像祥子 塩尻成花[照明] 竹林 功(龍前正夫舞台照明研究所) [音響] 島猛(ステージオフィス)
[舞台監督] 森下紀彦 [美術] 加藤ちか じょん万次郎
[演出助手] 村野玲子 [衣裳] 小林巨和 [文芸助手] 清水弥生 久保志乃ぶ
[オリジナル宣伝デザイン] 遠井明巳 [宣伝意匠] 高崎勝也
[協力] オフィス・ミヤモト [制作] 古元道広 近藤順子
[Company Staff] 桐畑理佳 秋定史枝 大浦恵実 鈴木菜子 脇園ひろ美 松岡洋子 福田陽子 鈴木陽介 西川大輔 宮島千栄 橋本浩明 内海常葉 秋葉ヨリエ主催:有限会社グッドフェローズ
提携:公益財団法人 武蔵野文化事業団
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(舞台芸術創造活動活性化事業)
「くじらの墓標」は1993年の初演。ザ・スズナリで観劇した記憶がある。24年ぶりの再演という風に言われると計算上は確かにそうではあるのだが、もうそんなに経っているのかという気持ちもある。燐光群の坂手洋二は「社会派」劇作家といわれ確かにそれは誤りではないのだが、作家としての資質の最良の部分は舞台空間に幻想(非日常)を立ち上げるその豊かなイメージ構築力にあるのではないか。燐光群「くじらの墓標」をひさびさに観劇してみてそう思った。
実はこの舞台の装置を開演前に見て思ったことがある。それは最近ザ・スズナリでやはりひさしぶりの再演バージョンを見た「カムアウト」との類縁性である。どちらもいまはもう使われていない倉庫の跡地のような場所が舞台となっていて、そこにさまざまな登場人物が集まってきてひとつの場を形成する。そして、現実としての事件と幻想としての虚構性の二重性。坂手にはその後、現代能楽集と彼自身が名付けることになる一連の作品群があるが、「カムアウト」「くじらの墓標」はそうした作品につながっていく系譜の作品なのではないかと考えた。
もちろん、「くじらの墓標」という作品を坂手が構想し、制作するにいたるにはひとつは捕鯨産業が世界的な捕鯨禁止の圧力の中から滅びつつあるという当時の実際の社会的な状況への憤りがあったかもしれない。それだけではなく後に「バートルビー」などの作品でも開花するハーマン・メルヴィルと「白鯨」への傾倒もあったかもしれない。
ただ、「くじらの墓標」という舞台を見ての印象ではそうした問題(特に捕鯨問題の実際)などはどうでもいい些細なことになっていたのではないか。とはいえ、社会派作家としての自負からか中段辺りで突然ほぼ何の脈絡も無く、クジラについて研究しているという女性学者が登場して捕鯨問題についてのあれこれを語るが、この部分は物語の流れから全体からすると明らかに蛇足、不必要なものとしか思えなかった。