勅使川原三郎アップデイトダンスNo.41「AND」@
出演 佐東利穂子 鰐川枝里 振付 勅使川原三郎
AND 、と
激突する空気との衝撃 香り高い低空飛行 暗闇の色彩変化と
欲望の食べ残し 手の平からどこまでも伸びる生命線と
翻弄される身体 はかなさの力 それと 永久落下 永久上昇 そして
佐東利穂子と鰐川枝里のデュオ作品ということでクレジットされていたが、この日は佐東利穂子がソロで踊った。今年はひさびさに宮沢賢治に挑んだ「春と修羅」をはじめ「白痴」(ドストエフスキー)、「トリスタンとイゾルデ」(ワーグナー)と内外の古典といってもいいテクストを踊ることに力を尽くしてきたが、「AND」にはそういう固有の文学的あるいは音楽的なテキストはない。
おそらくダンサーとして充実の極みに近づきつつある佐東利穂子と今年2度にわたって上演されたソロ作品「米とリンゴ」で勅使川原門下の女性ダンサーとして佐東とはまた違う個性を発揮しつつある鰐川枝里をデュオとして組み合わせてみることで、どんな化学反応が起こるのかを試してみようという実験公演ではないかと考えていたのだが、この日の段階では佐東ソロだったので、そうしたことに立ち会うのはまた次の機会を待ちたいと思う。
「AND、」の作品としての特色がジャズ、クラシック、ポピュラーと音楽の曲想が短い時間の間に次々と変わっていくことだ。勅使川原三郎のダンス作家としての特質は彼が単にダンスの振付家というだけではなく、造形作家としての側面も持っていて、また照明デザインも自ら行うことで優れた美術家として空間も構成することができることだ。ただ、アトリエ(けいこ場)でもあるカラス・アパラタスでの公演では舞台美術はいっさい用いず照明などの効果も最小限にして、身体ひとつをその狭い空間に置くことで濃密なダンス空間を作り出すことを目指してきた。
ただ最小限の要素とはいうものの、連作のうち今年のこれまでの多くの作品では言葉や物語をそのままなぞるということではないにしても、例えば「白痴」ならばドストエフスキーの小説、「トリスタンとイゾルテ」ならばワーグナーの楽劇、「牧神の午後」であればドビュッシーの音楽や先行する舞踊作品などを基にそれと対峙するような形で作品作りに取り組んできた。
「AND、」にはそうした参照すべき先行作品というのはおそらくなくて、2人のダンサーがまずいるというところから出発して、そこにさまざまな音楽を置いてみて、そこから生み出されるムーブメントや身体の置き方にシーンごとに照明効果を考えた空間構成を付け加えていく。そして「AND、」の表題通りに本当はそこにひとりではなく、2人のダンサーがいるこということが決定的な意味を持ってきそう。
特定の音楽や劇世界を前提としている場合はそれとの関係において、どうしても動きの種類や質感は制限されるために持っている動きの多様性の幅をそれほど見せられるわけではないが、「AND、」ではそういうものはないので、壊れた人形のような動き、柔軟でなめらかな動き……。ソロの現在では佐東利穂子がこれまで培ってきた動きの質感の多様性を楽しむべきものとなっていたかもしれない。
No.29
『ダンスソナタ 幻想 シューベルト』
2016年1月7日〜12日
No.30
『青い目の男』原作ブルーノ シュルツ
2016年1月16日〜23日
No.31
『静か』無音のダンス
2016年1月28日〜2月4日
No.32
『米とりんご』
2016年2月12日〜2月22日
No.33
『もう一回』
2016年4月11日〜4月19日
No.34
『春と修羅』宮沢賢治とダンス
2016年5月26日〜6月3日
No.35
『トリスタンとイゾルデ』
2016年6月8日〜6月16日
No.36
『白痴』
2016年6月21日〜6月29日
No.37
『夜』la nuit
2016年7月20日〜28日
No.38
『牧神の午後』
2016年8月10日〜18日
No.39
『米とりんご』
2016年9月11日〜19日
No.40
『SHE』
2016年10月17日〜26日
No.41
『AND』
2016年12月3日〜10日